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「5年間で530万人の雇用機会の創出が期待その最大のねらいは「雇用の流動化・多様化」の飛躍的推進にある。
つまり、これまで支配的であった日本の終身雇用的・年功序列的慣行を、このさいその基本を解体しようという戦略である。
かつて私は「経済」(99年21月号)や拙著「「日本的経営」の崩壊とホワイトカラー」(S社、99年刊)などで「日本的経営は2010年ごろまでに崩壊する」と主張したが、「骨太の方針」がそのとおり実践されれば、私の予測よりも「日本的経営の崩壊」の時期が早まることになろう。
しかしそれは、財界など支配層にとって重大な矛盾でもある。
なぜなら、「日本的経営」のもつ、労働者の「心」を企業にしばりつけ、みずから過労死に突っ走らせるような「しくみ」の解体を意味し、さらに「運命共同体的経営」を可能にしてきた特異な「労使協調主義」をも解体することになるからである。
「労使協調主義」を支えてきた「パイの理論」が破綻・崩壊するのだ。
このような矛盾に直面せざるをえないことは、かれら自身予測できたはずだが、にもかかわらず自ら仕掛けた「大競とめている。
かれらは「痛み」の先の「展望」を示さなくてはならず、このような数字をとりあえず示したということだろう。
だから、根拠も大雑把である。
日本のサービス部門の一雇用比率(60%)がアメリカなみ(70%)になればサービス部門を中心に新規一雇用の拡大が期待できるなどといった類のもので、とうてい批判にたえうる内容ではない。
だからといって、それをたんに労働者を「安心」させるための作文だと軽視することはできない。
その眼目は「530万人」という数字ではない。
結局、財界・政府は、90年代の経済政策・雇用政策(「構造改革」)の誤りを、新世紀においても拡大させて強行し墓穴を掘っている、ということだ。
この道に未来はない。
90年代の後半から「構造改革」が本格化した。
その展開を日経連の各年版「労働問題研究委員会報告」の検討を通じて検証することが本章の課題である。
毎年の「報告」には反復が多い。
それをいとわず読みすすめると、繰り返しながら新しい財界戦略を固めていった過程がみえてこよう。
毎年、春闘本番目前に発表される日経連(現・日本経団連)の「労働問題研究委員会報告」(03年から「経営労働政策委員会報告」)は「隠れたベストセラー」といわれる。
そこには財界の春闘方針だけでなく、当年の財界戦略が凝縮して述べられているからであろう。
個別企業の経営・労務戦略の策定においてこの「報告」が重視されることはもちろん、労働者・労働組合サイドでも財界の戦略・方針には大いに関心があり「報告」が利用されている。
社会科学系の学生のあいだでも読者が意外に多く、就職試験対策としても活用されているようだ。
この「報告」の歴史は長い。
その前身の文書は別としても、75年春闘に向けて出されたのが第一号である。
以来、毎年、公刊されている。
だが、本章で取り上げるのは95年以降の「報告」である。
なぜか。
日経連の新しい経営労働戦略とされている報告書「新時代の「日本的経営崖が発表されたのが95年であったし、このこととも関連してリストラ・規制緩和が新局面を迎え、なによりも雇用・賃金・労働時間など労働者をめぐる状況が一段と深刻になったのが、90年代の後半以降であるからにほかならない。
もっと感性的にいえば、私が「国民総イライラ社会」を意識するようになったのが、そのころからだからでもある。
それ以前から私は毎年、雑誌「労働運動」で「報告」を取り上げ、検討・批判してきたが、「報告」が「財界新戦略」をはっきり意識させるようになったのは、やはり95年からだと思う。
その前年に「新時代の「日本的経営」」の「中間報告」が発表され、そこで「新時代・」の基本・骨格が示され、95年の「報告」がそれを色濃く反映していた点も大きい。
こんなわけで本章は、そのつど「労働運動」で論評してきた文章によっている。
それぞれの執筆時の息吹が伝わるよう、技術的な調整のほかは、ほとんど手を加えていない。
こうして95年以降の「報告」を通観すると、いろんなことが浮かび上がってくる。
毎年同じような主張を繰り返しているようにみえて繰り返しのなかから一歩踏み出す、という戦略展開になっているようだ。
たとえば、「賃金決定の個別化」、「定昇見直し」、「ワークシェアリング」、「社会的高コスト構造」など、いま重大な争点となっている問題が、いつから、どのようなねらいのもとに打ち出されたのか、時系列的に「報告」を振り返ることで明らかになろう。
「財界新戦略」「構造改革」が労働者・国民の限りない「痛みの山」を築いてきた経過が浮かび上がるはずだ。
日経連(2002年5月、日本経営者団体連盟〈日経連〉と経済団体連合会〈経団連〉は統合として日本経済団体連合会〈日本経団連〉となった)はP臨時総会(1995年1月21日)をひらき、95年版「労働問題研究委員会報告」(以下、各年版ともに「労問研報告」ないし「報告」と略す)を採択・発表した。
この95年版「報告」では、「総体としては、賃上げの余地はない」として、いわゆるベア・ゼロを宣言している。
この日経連のベア・ゼロ宣言については、マスコミも注目し、繰り返し報道されるところとなった。
このように、日経連の賃金抑制の仕掛けは、たしかに大きい。
国民経済規模で(さらに国際経済規模で)もっともらしい仕掛けをはりめぐらし、それをうけてベア・ゼロ論、春闘見直し論を「当然の帰結」ででもあるかのように導ところが日経連は、そのようなマスコミの報道の仕方にクレームをつけている(「N」同月19日付)。
木をみて森をみない報道の仕方であるというのだ。
ベア・ゼロというのは「木」にすぎず、重視すべきは構造問題をかかえた日本経済という「森」の部分のほうであると、日経連はいいたいようだ。
なるほど「報告」は、「日本経済が行き詰まり状態にある」として(直接的には「空洞化阻止のために」という理由で)、ベア・ゼロを主張している。
これ以上日本の賃金が高くなると、高賃金をいやがって企業がどんどんアジアなど海外へ逃げ出し、ますます「産業空洞化」がすすむ、というわけだ。
要するに、日本経済をトータルに分析した結果、ベア・ゼロという結論になったのであって、そのほうが国民経済にとって(また労資双方にとっても)いいことであるというのが、「報告」の主張なのだ。
だが、このようなトリックだらけの主張は、なるほど「N」(同月26日付)のいう「情勢の認識や問題点の指摘について基本的に大きな見解の差異のなどあいだがらの労資協調主義初めに規制緩和ありきこれが「報告」の論法の特徴だ。
すでにそれが「報告」の序文で露呈している。
つぎのとおりである。
まず、「異常な円高、成長の鈍化、大幅経常黒字、内外価格差、高コストによる産業空洞化といったわが国経済が直面する多くの問題」が存在するという。
ついで、その「原因」が「国内産業間に発生している大きな生産性格差」にあるという。
さいごに、生産性格差が生じた「主因」が「保護・規制によって低生産性部門の生産性向上が妨げられている」ことにあるという。
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